※本ページに記載する内容は、2023年2月に改訂しました。
ここでは、主に心房細動と診断された患者さん、またはそのリスクがある方に向けて、具体的な治療方法や治療にかかる費用などを紹介します。
【監修】
社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院
心臓血管センター不整脈先端治療部門
最高技術顧問 奥村 謙 先生
心房細動の主な治療法には、「薬による治療」と根治を目指す「カテーテルアブレーション治療」があります。それぞれの治療法の種類や先生とのQ&Aも合わせて解説いたします。
心房細動では、心房で頻繁に異常な電気信号が発生することから心拍が速くなり、心臓に余計な負担がかかってしまいます。そこで薬を使って心房細動が起こらないようにしたり、心拍数(レート)をコントロールしたりします。また、心房細動があると血栓ができやすくなりますので、血栓を予防するための薬を服用することもあります。
心房細動治療のための薬はどれくらいの期間で飲むのですか?
薬による心房細動治療は根治する治療ではないので、継続して飲み続ける必要があります。自己判断で中断せず、気になることがあれば、主治医に相談しましょう。
心房細動に使用する薬には、心拍数が速くならないようにする薬と、心房細動の再発を抑える薬があります。
① 心拍数をコントロールする薬(レート治療)とは?
心房細動中に心室(心臓の下の部屋)に伝わる電気信号を減らして、心拍数を正常に近づけます。心房(心臓の上の部屋)が速く小きざみに震えている状態は変わりませんが、心拍数を抑え、自覚症状の改善を目的としています。
② 拍動のリズムを整えて心房細動の再発を抑える薬(リズム治療)とは?
心房の心筋(心臓の筋肉)に直接作用することで、心房の異常な興奮を抑え、拍動を正常なリズムに整えます。抗不整脈薬という薬を使用し、心房細動のきっかけとなる異常な興奮の源や、心房内で回り続ける電気信号に作用することで、正常な拍動に戻すことを目的としています。
心房細動が起こっていると、心房内で血液がよどんでしまうため、血栓ができやすい状態になります。心房内にできた血栓は、左心房から脳へ運ばれ、心原性脳塞栓を引き起こす危険性があります。そのリスクがある方は、血栓ができないようにする抗凝固薬を内服する必要があります。
特に下の表で点数が高い方は血栓ができやすいといわれており、現在は1点から抗凝固薬が推奨されます。医師に相談しながら、適切な治療を受けましょう。
心房細動における脳梗塞発症リスク評価
心不全 | 1点 |
高血圧 | 1点 |
75歳以上 | 1点 |
糖尿病 | 1点 |
脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の既住 | 2点 |
あなたの脳梗塞リスク | 合計 点 |
その他のリスク
【参考文献】
不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf(2024年3月閲覧)
抗凝固薬にはダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ワルファリンがあります。(2024年3月現在)
薬による治療を行っていても心房細動が再発する患者さんや症状が強い患者さんに適しているのがカテーテルアブレーション治療です。薬による治療は主に心臓への負担や自覚症状の軽減を目的としているのに対し、カテーテルアブレーション治療では心房細動の根治が期待できます。
※カテーテルアブレーションを検討する場合
薬物治療を行っても再発を繰り返す患者さんや、症状が強い方が基本的に適しています。ただし、長期(数年間以上)にわたり心房細動が続いている方や、左心房が大きくなっている方、左心房内にすでに血栓ができている方は対象となりません。なお、高齢の方(80歳以上)もカテーテルアブレーションの適応となりますが、合併症にリスクが高くなることも知られており、その適用については主治医とご相談下さい。
カテーテルアブレーション治療は、電極カテーテルという筋肉に熱を加えることができる細長い管状の治療機器で、心筋の一部に組織変化をおこし(焼灼(しょうしゃく)する、といいます)、心房の無秩序な電気信号を止める治療法です。心筋の一部を冷却・冷凍する治療も行われています。
治療は、局所麻酔した太もものつけ根や首の静脈からカテーテルを挿入します。カテーテルの先端を、異常な電気信号が発生しやすい左心房に到達させて治療を行います。追加的に右心房で治療することもあります。治療の際、多くの施設では患者さんに鎮静剤を使用し、不安や疼痛を軽減しています。
カテーテルアブレーション治療の合併症
カテーテルアブレーション治療において、まれに合併症が起こることがあります。心臓や血管を傷つけることや心臓の中にあった血栓による脳梗塞、食道の障害などです。
※患者さんの状態や医療機関によってスケジュールや検査の内容は異なります。
1.心房細動を診断するための検査
心臓の電気信号や心臓の働き、大きさ、他に心臓病がないか、などを確認します。
2.治療前の検査
左心房の形態を確認し、また左心房内の血栓の有無などを確認します。
3.入院 ※カテーテルアブレーション治療の1日前
4.カテーテルアブレーション治療当日
当日治療前
治療
治療後
治療翌日から
5.退院後の生活
カテーテルアブレーション治療は、短期間ではあるものの入院が必要となり、治療前にはさまざまな検査を行います。
治療にかかる費用は医療機関、治療内容、入院日数などにより異なりますが、100~250万円 程度が目安となります。治療費は健康保険が適用されるうえ、高額医療に対する還付制度を利用すると自己負担額を減額できる場合があります。
※年齢や所得、治療内容などの条件により異なりますので、医療機関の窓口などにご相談ください。
高額医療に対する還付制度
高額療養費制度:医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です(入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません)。詳しくは、厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をご参照ください。
限度額適用認定:高額療養費制度を利用する場合、ひと月の限度額を超える分を窓口で支払う必要がなくなる制度で、ご加入の健康保険組合、協会けんぽ、または市町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度)などで 「認定証」の交付手続きが必要です。詳しくは、厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をご参照ください。
カテーテルアブレーション治療の内容や患者さんにとってのメリット、デメリット、合併症や後遺症が出た場合の対処法、カテーテルアブレーション治療を受けなかった場合の経過などが医師から説明されます(インフォームドコンセントといいます)。この際、不安な点や疑問に思うことを医師に尋ねるようにしましょう。またメモを持参すると確認もれを防ぐことができます。
当社内で行われた講演動画をご覧ください。(2021年10月実施)
本説明は心房細動の治療について概要を参考としてお示ししています。特定の治療を推奨するものではなく、また治療内容、効果、費用等を保証するものではありませんので、詳細は医療機関や関係機関にご確認ください。